Scene.31 なんてったって、本屋!
高円寺文庫センター物語㉛
「あれ、菅ちゃん。この時間に営業は珍しいね?!」
「そうなんすよ。店長とニューバーグでランチしようと思って」
「ママさん、菅ちゃんを連れてきたけど。なんかある?」
「大丈夫。けんちん汁、腹いっぱい食わしてやっから!」
「ママさん、相変わらずっすね。
しかし店長、24日は神宮球場での日本シリーズは惜しかったですよ!」
「まさか、翌日にスワローズが優勝を決めるなんて思わないじゃん。
ま、みんな贔屓チームに関係なく日本シリーズを観戦するのも乙じゃん。って、言ってたからいんじゃないの。
だけど、帰りは参ったよ!
表参道駅で人身事故に遭ってさ、タクシー拾うしかなくて・・・・」
「それを翌日だかに、営団事務所に乗り込んでタクシー代の4900円奪還したって話でしょ。一昨日、石川さんちでの『たこ焼き花火大会』で聞きましたよ!
松戸市のすぐやる課じゃないけど、すぐ忘れる課?! じゃ、ないっすか」
「そうなの!
もう、今日で50だもん。忘れっぽいの、許してな」
「わ! おめでとうございます。ついに大台じゃないですか」
「どもっす。さすがに、ちょっとガーンなんだよなぁ・・・・
さらに長嶋さんは監督辞任するし、槙原・斎藤・村田は引退って来シーズンのジャイアンツは不安でさ、店長としてのテンションダウンだよ」
「殿!
よく言うわねぇ。こないだはQちゃんがベルリンマラソンで世界新記録だって、はしゃいでいたくせに」
「さすがの店長も、ママさんには敵わないっすね」
「ご無沙汰です、店長」
「お久しぶり、永江さん。
もう著作は4・5点になるよね。頑張っているなって感心してますよ!」
「ところで今日は、お話を伺いたいんですけど時間あります?」
「野暮言わないの。元でも、本屋仲間じゃない!」
「アマゾンが、日本に上陸して一年になるじゃないですか。
それをちょっと原稿にまとめたくて、大手書店から街角書店まで取材しているんですよ。特に店長からは、貴重なお話が聞けるかなって思って」
「永江さんがあちこちで書いているのは、読んでいるから。意見は一緒。
それじゃ、原稿にならないから現場からのリアルな声が欲しいんでしょ?!」
「だって、街角書店は売上げの雑誌依存率が90%台前後の中にあって、文庫センターは50%台なんでしょ?!
90年代後半からの急速な雑誌の売上げ減のなかで、頑張り抜いている視点からご意見拝聴ですよ」
「あのね。確かに雑誌の依存率は低くても、店全体の売上がたいしたことはないんだからさ。雑誌販売の低下は、由々しき事態になっているんだからね。
アマゾンの上陸は、ボクらにとって黒船ですよ。書店のオヤジさん達は、アメリカの書店事情とは違うからとタカをくくっているけどさ!
74年にアメリカの書店を見学に行ってから、向こうの書店事情を勉強したのよね。アメリカはブッククラブの時代だったんだ。広大な国土に、都会はともかく町レベルで本屋はどれだけあるのって話じゃん。
カントリーライフの作家が、書き上げた原稿を郵便で送る。一般読者はその逆で、ブッククラブのカタログから欲しい本を注文して、郵便で本が送られていた時代。
アマゾンが起業した時に、これはエンタメ情報誌『ぴあ』創刊以上の衝撃だったもん。アマゾンは、アメリカでブッククラブに取って代わるなって!」
「店長さ、文庫センターに即しての話でお願いしますよ」